カウンセリングサービスの東京面談ルームに行くとき、電車を降りて改札に向かう途中でいつも目に止まるポスターがありました。
俳優の藤岡弘、さんが怖い顔で「手が出たのは、酔っていたから?酔った自分も、自分じゃないのかい。」と、暴力行為は「酔っていたから」では済まされないと、諭しているものなんです。
酔った自分も、自分じゃないのかい。
お酒の話ではないのですが、
私は、こんな自分は、本当の自分ではないと思っていた時期がありました。
当時付き合っていた彼がいたのですが、デートのとき、私は普段よりずっとおしゃれな格好をして、履きなれないハイヒールを履きました。
いつもなら、くだらない冗談が好きで、言葉づかいもあまり良いほうではありませんでしたが、彼の前では女性らしい言葉を選び、丁寧に優しい人のフリをしていました。
それもこれも、素敵な彼に嫌われたくなくて、必死に自分をよく見せようとしていたのです。
本当の私を知られたらきっと嫌われると思っていたので、自分に対してとても厳しくなっていました。
こんな仕草はしてはいけない。
笑う時は、おしとやかに。
言葉はいつも上品に。
次第に彼とのデートが苦痛になってきました。
彼に会いたいけど、会うと疲れるから会いたくない。いや会いたい?
自分の心が揺れました。
とうとう私は彼に、打ち明けたのです。
あのね、実は、あなたと一緒にいるときの私は、本当の私じゃないの。
ポカンとしている彼に、私は彼とデートをしているときの私と、普段の私について説明しました。
もう嫌われる。絶対に嫌われる。
そう思ったけれど、仕方ないと思いました。
これ以上ウソをつきながら付き合うのは無理だ!
話を最後まで聞いた彼が言ったのです。
どっちの君も、君じゃないの?
ん?
想像もしていなかった返答でした。
でも私は思ったんです。
この人ったら、私のこと何もわかっちゃいない。。。
◇
私たちは誰でも、好きな人と会う時のかわいい私や、仕事をバリバリするときの私、親の前ではしっかり者の私など、その時々で違う顔を持っています。
仮面あるいはペルソナと言いますが、仮面を外した私は、おそらく家でヨレヨレのTシャツにジャージを着て、お菓子を食べながらテレビを見ている私なのかもしれません。
色んな仮面をつけているのは、誰もがやっていることだけれど、ヨレヨレTシャツの私が私だと思えば、それ以外の私は、ウソ物かもしれません。
ところが、ペルソナというのは、自分の中の良いところだけを見繕って作っているものだと言われているのです。
◇
私は母校でもあります神戸メンタルサービスで、オンライン心理学講座の講師をやらせていただくときに、時々ホテルの一室を借ります。自宅のネット環境がイマイチなのが理由です。
最近はインターネットし放題と謳うホテルも多いのですが、ネット環境はさまざまです。インターネットに繋がることは繋がるけれど、動画が固まることなど、しょっちゅうあります。
私は色んなホテルを利用し、最もネット環境とコスパに優れているところを探しているのです。
先日泊まったホテルは、とてもネット環境が良く、動画が固まることもなく快適だったのですが、ひとつ気になることがありました。
値段がリーズナブルなホテルなのですが、フロントの方がとてもとてもとても丁寧なのです。
安いホテルに行く時の私は、Tシャツにジーンズのような格好で行くのですが、そんな私に深々と頭を下げてお辞儀をしてくださることに、なんとなくいたたまれない気がしました。
高級ホテルだったら、もっと服装にも気を付けて行くし、そういうときにホテルの方に丁寧に扱っていただくことは心地よく受け取れるのです。
ん?
私はなんだか変だなと思いました。
良い服装をしている時の私は、丁寧に扱ってもらってもよくて、安物の服を着ている時の私は、丁寧に扱ってもらうほどのことではありませんと思っているようなのです。
どっちの君も、君じゃないの?
今更ながら、昔の彼の言葉の重みが感じられました。
仮面を被っていても、いなくても、どんな私にも価値がある。
そんな素敵な意味を、ありがたく受け取ろうと思ったのでした。
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