私の夫は音楽が好きで、以前からお気に入りのアーティストのライブによく行っています。
こんなご時世ですから、先日のライブは、観客人数その他色んな制限があったらしく、盛り上がりには欠けていたそうですが、気分転換にはなったようでした。
夫がライブから帰宅すると、私はたいてい「楽しかった?」と聞きます。
以前夫は、私がそう聞くと「うーん、別に」と答えていました。
ライブ好きな夫が楽しめなかったなんて残念だなと私は思っていました。
なにが楽しくなかったの?とか、何かあったの?なんて聞いたりしていましたが、明確な答えは得られませんでした。
とはいえ、夫は好きなアーティストのライブには必ず行くし、楽しくなければ行かないと思うのです。
でかける前もツアーグッズに身をかためていそいそと出て行くのです。
人は楽しいと笑顔になると思うものですが、必ずしもそうではないことがあります。
私はあるとき、ライブから帰って早々の夫に玄関で言いました。
「おかえり〜楽しかった?」
すると夫はまたいつものように「うーん」と首をかしげました。
私は夫に、「楽しかったなら、楽しかったって言っていいんだよ。そのほうが私は嬉しいんだから。」と言いました。
すると夫は、一瞬表情がキラッと輝いて、「楽しかった。」と笑って言ってくれました。
私は「それは良かった!」と笑って言いました。
夫は私が留守番で、夫ひとりがライブで楽しんできたのを、申し訳ないと思っていたようで、
ウキウキした気持ちをおさえて、楽しくなかった素振りをしていたようなのです。
私たちは、誰でも、周りの人に幸せであってほしいと無意識のうちに願っています。
特に大切な人のことは傷つけたくないし、なんとか大切に扱ってあげられる方法はないかと思うものではないでしょうか。
すると、私の夫のように、自分だけ楽しんでいるのは悪いなと思い、たいして楽しんでいないフリをする、という愛し方をすることがあるのです。
人を愛そうとする時に、ひとつ忘れてしまいがちなことがあるとしたら、それはあなたが相手を大切に思っているように、相手もあなたを大切に思い、あなたの幸せを願ってくれているということではないでしょうか。
あなたが幸せだと、周りの人も嬉しく幸せになるのです。
あなたが大切な人の幸せを祈るように、相手もあなたの幸せを祈ってくれています。
私たちは、知らないうちにたくさん愛されているということに気づきません。
私も、夫がなぜいつもライブ帰りに楽しそうにしていないのか、分かるまでだいぶ時間がかかりました。
「そうか、彼が私を愛してくれているからかもしれない。」
ようやくそんなことに思い当たったのでした。
夫も私も自分が愛されていることに気づかず、なんとか愛せないだろうかと愛することだけを考えていたのでした。
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