ずっと片思いだった人に必死の覚悟で告白し、人生初のデートにこぎつけたことがありました。
待ち合わせをした駅の改札に行くまでの道のりは、楽しい一日をあんなふうに、こんなふうに二人で過ごしたい、と夢膨らませていたのです。
待ち合わせ時間よりだいぶ早く着いたので、行き交う人たちを見ていたのですが、遠くから彼が歩いてくるのを見つけました。
だいぶ向こうの方にいるけれど、あれは絶対に彼だ。
そう思った途端、私は彼から目をそらしました。
本当はニコニコ笑顔で彼に手を振ってみたかったけれど、とてもじゃないけど恥ずかしくてできないと思いました。
彼が少しずつ近づいてくるのがわかったけれど、全く気付いていないフリをして、駅の壁に貼ってあるポスターを眺めていました。
ポスターを見ていたけれど、視界の端に彼を感じていました。
おはよう。
さわやかな笑顔で彼が声をかけてくれました。
あ、おはよう。
いま気づきました、と言うていで、私は答えました。
じゃ、行こうか。
うん。
それが、その日二人が交わした最後のまともな会話でした。
帰るまでの何時間もの間、私は恥ずかしさのあまり、超、超、超、無口になってしまったのです。
ほとんど何も言いませんでした。
何か言おうかな、と思っても、
こんなことを言ったら恥ずかしいな、とか、
なんて思われるかな、とか、
楽しくないと思われたら嫌だな、とか、
言葉を口にする前に自分にダメ出しをしてしまったので、
しゃべれなくなってしまったのです。
きっと困ったのではないかな、と、思います。
無言のデート。
私が話をしなかったので、彼も無言になりました。
告白から初デートの流れだったので、その後は付き合うことになるのかなという淡い期待がありましたが、
会って数時間でその期待はもろくも崩れ去りました。
帰宅した私は、自分の部屋に戻るなり、頭を抱えて悶絶しました。
なんてことをしてしまったんだろう。
私は自分の恥ずかしがりにも程があると思いました。
世の中の女子たちは、皆かわいく彼氏に微笑みかけ、おしゃべりし、楽しそうなのに、
そういうことが一切できない自分はおかしいのではないかと思いました。
そのデートのことは、もう二度と思い出したくないし、誰にも言えないと思いました。
それから数年にわたり、私には自分のことを恋愛に不向きな落ちこぼれ女子だと認識する出来事がたくさんありました。
合コンなどに行ってもうまくしゃべれない。
なになに君って、きっとあなたのこと好きだと思うよ、などと言われると、とにかくその人に見つからないように姿を隠す。
親し気に話しかけてくる男子がいると、素敵な人だなと思うほどに、かえって嫌な顔をしてしまう。
そうしたいわけではないけれど、そうなってしまうのです。
私には恋愛はムリだ。恋愛下手は治らない。
そんなことを感じていたように思います。
たまに、あの初デートの痛々しい映像が頭をかすめることがありましたが、
いかんいかん、あれは忘れるんだ、思い出したくない、と必死で打ち消しました。
心理学では「自己概念」と言いますが、人は「自分とはこういうものだ」と強く思っていると、自然と無意識にそれに見合うような態度を取ったり言葉を発したりします。
するとその度に、やっぱり自分はそうだよね、と「自分とはこういうもの」という認識を強化したりするようです。
「自分とはこういうもの」と思うようになったのには、何かしらの出来事があったかもしれず、
私の場合は、無言のデートがそれだったかと思います。
あのデートの後、私はあのことは恥ずかしくて誰にも言えないし、思い出したくもないと思いました。
心の押し入れの奥の奥に押し込めてしまったのです。
でも、押し込めてしまったものは無くならないので、ふとしたときに頭をかすめたり、嫌な気分を思い出したりもします。
そんなことをしているうちに、暗黒の恋愛皆無の年月を過ごすことになりました。
恋愛下手の大きなレッテルを自分に貼っていたのです。
みなさんの中にも、何かの理由により、そんなレッテルを自分に貼っていらっしゃる方がいるかもしれません。
だとしたら、「自分は恋愛下手なんだな」と思ってしまった出来事を、再評価してあげるのも一つの手だと思うのです。
「あの出来事」は、今ならどう考えられるのかな、ということです。
私の場合だと、そもそも人生初のデートだったのだから、緊張しても仕方なかったよね、とか、
恥ずかしがりやさんは、悪いことではないし、傍からみると案外かわいいよね、とか、色々な受け取り方があると思うのです。
そういうことをしてみると、あの出来事を人生最大の汚点・かつ自分を象徴する出来事ではなくて、たまたま起きた甘酸っぱい思い出に変えることができるかもしれません。
過去に起きたことを再評価するのは、思い出したくないことに向き合うわけで、結構勇気がいります。
ひとりでやってもいいけれど、やりづらいこともあるかもしれません。
人に聞いてもらうことで気づきが得られやすいということもよくあります。
気のおけない友だちに聞いてもらうなど、工夫してみるといいかもしれません。
そんなことで悩んでいたんだねと、笑い飛ばせるようになったとしたら、恋愛下手のレッテルはいつのまにか外れていて、次の素敵な恋に一歩近づいているかもしれませんね。
よろしければ私たちカウンセラーにも頼ってくださいね。